記事14 悲惨な事故とKYT(危険予知訓練) 事故を予測してみよう
安全衛生管理業務を担当の皆様、ご安全に。
さて、第14回目は「KYT(危険予知訓練)」についてです。
*以下の教育資料ppを展開します。自由に編集下さい。
「こちらをクリック」 ⇒ 記事15にまとめて掲載しました。
★目次
〇悲惨な事故が多発
大変残念なことに、最近死亡事故が多発しています。
読者の皆様にもお伝えしたいのですが、労災は誰の得にもなりません。
被災者家族が悲しむのは勿論のこと、職場の管理者や同僚に至るまで世間からは攻められ、企業はイメージダウンによる売上低下も懸念されます。
〇労災防止に向けた意識について
労災を未然に防ぐ取り組みは、古くから継続して行われています。ただ、発生件数は減少傾向にあるも、撲滅までには至っていません。
*記事5 災害統計データから見た傾向も参考にどうぞ。
対策を行う上での大前提は、自発的に安全活動を行う意識が存在することです。いわゆる従業員が安全活動を「自分事化」できている状態です。
下記、三井化学の衛生委員会活動事例報告にもありますが、「やらされ感」こそが課題とあります。
「安全も衛生も、一番の課題は“やらされ感”です。皆がもっと“自分事”にして、主体的に参画してもらえればと思います」
三井化学 https://www.johas.go.jp/Portals/0/data0/sanpo/sanpo21/sarchpdf/97_26-27.pdf
尚、この「意識」ですが、3タイプがあり、如何にして意識レベルを「当事者意識」に格上げするのかを考えることが重要です。
仕事を自分事として捉えるための当事者意識 | 総合人材サービスのヒューマントラスト
この前提がある中で、下記、対策手法を紹介します。
①体感教育の実施
ある作業にどんな危険性があるのか、正直ピンとこないことありませんか?そこで、実際に五感で体感してもらう取り組みが体感教育です。
どの程度の危険があるのか、まさに、「百聞は一見に如かず」です。
尚、上記の発展版として、最近ではVRを用いた体感教育も行われています。
【建機レンタル】Safety Training System VR of AKTIO【アクティオ】
VRは体感性が高く、質の高い教育が可能です。
②KYT(危険予知訓練)
そこで、誰もが容易に実施可能な方法として、KYT(危険予知訓練)を紹介します。
KYTを説明する前に、実際にやってみましょう。
以下を見て、危険な作業、及び、その解決方法を考えてみて下さい。
危険予知訓練は、作業や職場にひそむ危険性や有害性等の危険要因を発見し解決する能力を高める手法です。ローマ字のKYTは、危険のK、予知のY、訓練(トレーニング)のTをとったものです。
尚、このKYTですが、「KYT4ラウンド法」という手順が存在します。
危険予知訓練は、もともと住友金属工業で開発されたもので、中央労働災害防止協会が職場のさまざまな問題を解決するための手法である問題解決4ラウンド法と結びつけ、さらにその後、旧国鉄の伝統な安全確認手法である指差し呼称を組み合わせた「KYT4ラウンド法」としたものが標準とされています。
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/shakai_e_Part3.pdf
また、「記事3 不安全状態、不安全行動とは?」より、事故は「不安全状態」と「不安全行動」がどちらも発生した場合に、発生する可能性が急増することを紹介しました。
このことから、KYTは抽出した危険性に「不安全状態」と「不安全行動」入れる必要があり、これがないと誤った対策に繋がります。
次回、KYTのやり方を紹介したいと思いますが、先に講習を紹介しておきます。
良ければ受講してみて下さい。
・中央労働災害防止協会(中災防)
中災防:直近3か月のセミナー・研修会一覧 (ゼロ災運動、KYTコース)
・(一財)中小建設業特別教育協会
KY(危険予知)活動実践研修 講習会のご案内|(一財)中小建設業特別教育協会 (tokubetu.or.jp)
〇書籍紹介
最後に、KYT用の事例シートが掲載された書籍を紹介します。職場で活用頂ければ幸いです。
みんなでチェック! 危険な製造現場のイラスト事例集 単行本(ソフトカバー) – 2021/1/25 労働新聞社 (著)
みんなでチェック! 危険な製造現場のイラスト事例集 | 労働新聞社 |本 | 通販 | Amazon
保育園における危険予知トレーニング 単行本 – 2015/9/5
田中 哲郎 (著)
改訂新版 ナースのための危険予知トレーニングテキスト: 医療安全教育・研修にすぐ使えるKYTシートつき 単行本(ソフトカバー) – 2022/9/5
杉山 良子 (編集, 著)
改訂新版 ナースのための危険予知トレーニングテキスト: 医療安全教育・研修にすぐ使えるKYTシートつき | 杉山 良子, 杉山 良子 |本 | 通販 | Amazon
今回はイメージトレーニングでリスクを事前に回避する手法としてKYTを紹介しましたが、次回は実際の進行方法や訓練手順を紹介したいと思います。
では、今日も一日、ご安全に。
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記事13 ヨシ!でお馴染みの指差し呼称 効果と促進事例の紹介
安全衛生管理業務を担当の皆様、ご安全に。
さて、第13回目は「指さし呼称の効果、及び、促進事例紹介」についてです。
★本日の要点
- 指差し呼称は有用な労災防止手法。誤りの確立を1/6に減少できる。
- 本当に必要な場面で意識せずに指さし呼称できるよう仕向けることが重要。
*以下の教育資料ppを展開します。自由に編集下さい。
★目次
★詳細(~以降は興味のある方のみご覧下さい~)
〇指さし呼称とは?
突然ですが、下記のイラストをご存じでしょうか?
特徴的な「ヨシ!」を発するこの猫は「現場猫」と言い、ネット上で非常に流行りました。
この「ヨシ!」こそ、ずばり、指さし呼称です。
*勿論、こんな風に足は上げませんが。
実は、蒸気機関車の運転士が行っていた安全動作が発祥だそうです。
元は、日本国有鉄道の蒸気機関車の運転士が、信号確認のために行っていた安全動作でしたが、現在では鉄道業にとどまることなく、航空業、運輸業、建設業、製造業等、幅広い業界で行われています。
〇指差し呼称の効果
「ヨシ!」の発声と共に指差しするだけの「指さし呼称」ですが、意外にも、非常に有用な労災防止手法です。
以下の通り、指差しするだけでも十分に効果があり、声出しと併用すると更に効果が高まります。
誤りの確立を1/6に減少できるのは、大変効果が高いと思います。
尚、これは、指差し呼称による意識レベル向上が関係しています。下記に、「フェーズ理論」を示します。
要するに、フェーズがⅠからⅡ,Ⅲへと向上するため、脳の働きが好調となり、ミスを防止できるという考え方がフェーズ理論です。
フェーズ理論(フェーズりろん)は、人間の意識に関する考え方。
人間の信頼性は意識に依存しているが、この意識レベルを5段階のフェーズに分けた考え方をフェーズ理論という。
主に工場などで安全活動をする上での考え方として取り入れられている。
フェーズが大きくなるほど集中・緊張をしている状態を表す。
〇正しい指差し呼称
あまり知られていませんが、指差し呼称には正しいやり方があります。
ポイントは③で、本当にその内容で問題がないか、確認することが重要です。
動画も参考に展開します。
〇懸念事項
この指差し呼称ですが、実際の現場では勿論、講習や会議の最後、または期首訓示等で使用されるケースが増えたように感じます。
以下のように、大きい会社程、こういう機会は多いのではないでしょうか?
【災害が減らない】~安全文化の作りかた4選を解説~第28回 | 安全学園~安全担当者のためのブログ~ (anzen-gakuen.com)
最近は、例の猫もいつも間にか中災防の公式キャラクターになり、更に一般化されたと感じます。
[デジタル版]安全衛生ポスター(猫のフリ見て・ご安全に) | ポスター | 中災防:図書・用品 (jisha.or.jp)
指差し呼称が一般化されることは非常に良いことです。
ただし、本当に必要な場面で、誰もが意識せずに指さし呼称できるよう仕向けることが重要と考えます。
〇実例紹介
最も効果的な方法として、まずは以下を紹介します。
ユニット
トークナビ2 伸縮スタンドセット
音声はかなり注目を集めるので、効果が大きくオススメです。また、大変頑丈で防水加工済で屋外使用可能です。
尚、本メーカー、音声ファイルも無料公開しています。参考に展開します。
更に、無料の音声ツールも展開します。こちら、合成音声を簡単に作成できます。
次にはステッカーです。
指差呼称 右ヨシ! 左ヨシ!(S) 粗面に直接貼れる 強粘着ステッカー 300X240mm
ブランド: プロテック
このステッカーは接着性が良好なだけでなく、表面がザラザラに加工され、転倒防止効果も期待できます。
ただし、一般的なステッカーよりも耐久性は高いのですが、どうしても定期的に更新が必要で、そのたび購入する必要があり費用もかさみます。
そこで、スプレーで簡単に印字できる吹き付け用プレートも紹介します。繰り返し使用可能で、最終的にはステッカーより安価になります。
以下、ポスターやフィギュアも紹介します。安全関連の行事での景品等、啓発活動にご使用下さい。
★管理人からのコメント
非常に有用な指差し呼称ですが、本当に必要な状況では使用されないケースが目立ちます。正直、社内でお祭りごとの様に指さし呼称が広められていることは事実かと思います。
良ければ、この機会に、指差し呼称が有用な労災防止手法と捉え、考えを改めて頂けますと幸いです。
また、以下、良い記事を見つけましたので紹介します。
要約すると、安全を重要と考える組織文化を如何にして作るのかが記載されています。
本記事より、私は、安全文化を作り上げる手法の一つ「(1)トップの意識を明確にする」が最も重要と考えます。
この記事を読んで頂いた会社トップの方、是非ともまずは自身が指さし呼称を常用してみて下さい。
では、今日も一日、ご安全に。
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記事12 腰痛対策は非常に困難?実例から紹介する腰痛対策とグッズについて
安全衛生管理業務を担当の皆様、ご安全に。
さて、第12回目は「腰痛対策と実例紹介」についてです。
★本日の要点
- 「動作の反動・無理な動作」=「腰痛」
- 死傷災害件数より、腰痛は毎年上位を独占する深刻な労災
- 腰痛は他の事故と比べて対策が非常に困難。
- 対策が困難な要因は、①腰痛が自己責任であるという間違った印象 ②認定要件が複雑 ③殆どの腰痛災害において原因不明 ④腰痛発症要因の内、各個人に対策を委ねるカテゴリーが多い。
- 対策として、アシストスーツと腰椎コルセットを紹介。
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★詳細(~以降は興味のある方のみご覧下さい~)
〇おさらい
記事10で、各業種別に最も多い休業災害要因を調査しました。
「墜落・転落」 ⇒ 高所作業が多い業種:建設や運輸
「動作の反動・無理な動作」 ⇒ 重量物の取り扱いが多い業種:貨物
「転倒」 ⇒ デスクワークや接客系が中心の業種:商業や接客娯楽・・・記事11
「はさまれ・巻き込まれ」 ⇒ プレス機やロール等を扱う業種:製造業
今回は「動作の反動・無理な動作」について紹介します。
〇「動作の反動・無理な動作」の概要
「動作の反動・無理な動作」の説明は以下の通りですが、「腰痛」と考えて問題ありません。肩や首の症例もあるようですが、多くは腰が起因です。
重い物を持ち上げて腰をぎっくりさせたというように身体の動き、不自然な姿勢、動作の反動などが起因して、すじをちがえる、くじく、ぎっくり腰およびこれに類似した状態になる場合をいう。バランスを失って墜落、重い物をもちすぎて転倒等の場合は無理な動作等が関係したものであっても、墜落、転倒に分類する
意外ですが、以下の通り、死傷災害件数で見ると、毎年上位を独占するほど深刻な労災で、対策が強く求められています。
更には、厚労省が吉本興業とコラボし、危険性を啓発しています。
スポーツ庁からの動画も掲載します。
腰痛はそれだけ事故数が多く、更に危険性も高い、れっきとした労災です。
尚、記事6でも紹介した、全国労働衛生週間ですが、令和4年度も腰痛について啓発されています。下記、参考に展開します。
〇腰痛対策の難しさ
腰痛は他の事故と比べて対策が非常に困難です。要因を以下に記します。
①腰痛は自己責任であるという間違った印象
被災者は自己怠慢から生じた災害で自己責任と感じ、管理者も労災申請の必要性を感じないという各自の思い込みが強く、作業者・管理者・監督者、全てにとって非常に印象が良くありません。ここから、なかなか対策が進みません。
②認定要件が複雑
下記の通り、認定要件がやや複雑です。
要は、痛みが発生したのが業務中であるのか、が問われます。例として、業務時間中に建屋間を移動した際、重量物を運搬していて腰痛を発症したのか、または、ただ日々の蓄積疲労から発症したのか、ここがポイントとなります。
判定の難しさから、曖昧なままに時間が過ぎ、対策を放置するパターンが想定されます。
③殆どの腰痛災害において、原因が特定できていない
腰痛には原因を特定できる「特異性腰痛」と、原因が分からない「非特異性腰痛」の2種類があります。
特異性腰痛とは、医師による画像検査や診断によって原因を特定できる腰痛のことです。
非特異性腰痛とは、腰痛はあるものの下半身のしびれや神経痛などがなく、原因がわからないものを指します。
腰痛の種類とは?特異性腰痛と非特異性腰痛の違いや種類を解説! - ほぐしドットコム (ikebukuro-hogushi.com)
要するに、殆どの腰痛の原因はよく分かっておらず、対策するにもできない、となります。
④腰痛発症要因の内、各個人に対策を委ねるカテゴリーがある
以下、発症要因を4つのカテゴリーで示します。
姿勢・動作要因・環境要因は機器導入等、企業努力で対策できますが、心理的・社会的要因、及び、個人的要因は対策が教育等の個人に委ねる方法しかないため、ハード面での対策が困難です。
以上①~④が腰痛対策を困難とする理由でした。
〇対策事例
上記の通り、対策が困難な腰痛ですが、最も期待されているものの一つが以下です。
結果発表 - あんぜんプロジェクト (mhlw.go.jp)
上記が注目されていますが、問題点は値段です。
以下のもう少し安価なものも見つけましたので、良ければどうぞ。
アシストスーツ 楽衛門(らくえもん)
<Sサイズ> 腰の負担を軽減する!軽量かつ10秒で脱着!様々な力仕事をサポート
尚、上記の上位互換版がJRで導入されましたので、紹介します。
上記の小型版が出れば、腰痛をもっと軽減できるのかと思いますが、将来に期待したいと思います。
最後は腰痛ベルトです。以下の記事にて非常に詳細に内容の紹介があり、おすすめベルトが紹介されています。今回は2つ選定して下記に記載します。
腰椎コルセット ふつう/Mサイズ(へそ周り 65~85cm) ブラック
中山式ボディフレーム
腰用ハードダブル LL (中山式産業) (コルセット)
良ければ着けてみて、感覚を掴んでみて下さい。
★管理人からのコメント
対策が難しい腰痛ですが、記事11の通り、危険な作業の廃止・変更 ⇒ 工学的対策⇒管理的対策⇒ 個人用保護具の使用、の順にて対策が可能か検討して下さい。尚、腰痛ベルトは保護具です。検討の上、最終的に導入するのは問題ありませんが、まずはその作業自体が廃止できないかから、記事1、記事1youtubeでも紹介しました通り、現場の方と話し合ってみて下さい。お願いします。
では、今日も一日、ご安全に。
お知らせ youtube動画 記事1 公開の件
安全衛生管理業務を担当の皆様、ご安全に。
さて、本日はお知らせです。
この度、記事1を元に、youtube動画を作成しました。初めての作成にて大変手間取りましたが、無事完成しましたので、公開致します。
動画の方が、より皆様に安全衛生情報をお伝えし易いと考え、作成してみました。
ご視聴頂けますと幸いです。宜しくお願い致します。
では、今日も一日、ご安全に。
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記事11 転倒は重大労災?実例から紹介する正しい転倒対策とその手順
安全衛生管理業務を担当の皆様、ご安全に。
さて、第11回目は「転倒災害の具体的な対策例とその手順」についてです。
*類似記事も紹介します。参考にどうぞ。
★本日の要点
- 転倒による労働災害は全体の約25%を占め、約6割が休業1か月以上の怪我と申告な労災となっている。
- 対策の優先順位は優先度高い順に、「危険な作業の廃止・変更」、「 工学的対策」、「管理的対策」、「個人用保護具の使用」である。
- 転倒の要因は、滑り・つまずき・踏み外しの3種類である。
- 転倒対策例として、マーカー設置、マップ作成、滑り易さの数値化、安全通路の整備、アスファルトで段差を埋めスロープ設置を紹介した。
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〇おさらい
記事10で、各業種別に最も多い休業災害要因を調査しました。
「墜落・転落」 ⇒ 高所作業が多い業種:建設や運輸
「動作の反動・無理な動作」 ⇒ 重量物の取り扱いが多い業種:貨物
「転倒」 ⇒ デスクワークや接客系が中心の業種:商業や接客娯楽
「はさまれ・巻き込まれ」 ⇒ プレス機やロール等を扱う業種:製造業
今後、上記から1件抽出して、具体的な対策方法をお伝えします。
今回は「転倒」を選定します。
〇「転倒」の概要
意外ですが、転倒は非常に深刻な労災です。日常に発生しうる最も身近な事象ですが、転倒による労働災害は全体の約25%を占め、約6割が休業1か月以上の怪我です。更には、厚労省がプロジェクトを立ち上げ災害防止を啓発しています。
以上より。転倒は、対策優先度が高く、十分に対策を行うべき労働災害と言えます。
〇対策の手順
記事2に記載の通り、まずはリスクの特定⇒分析⇒評価を行い、対策の優先順位を付けます。その後、実際に対策を行いますが、対策にも優先順位があり、法令遵守事項を大前提として以下の通り進めます。
*リスクアセスメントの導入・実施手順
リスクアセスメントにおいてライオン=危険源として説明した有名な図です。
では、作業例を挙げて説明します。
作業例
倉庫内の給食用食材が入った段ボールを両手で持って調理釜前まで運搬する作業がある。現在、倉庫はかなり古く、倉庫入口付近の道路に凹凸が目立ち、転倒の恐れがある。
対策例
1 危険な作業の廃止・変更 ⇒ 献立変更で運搬作業自体廃止
2 工学的対策 ⇒ 道路凹凸補修
3 管理的対策 ⇒ 凹凸注意の明示、正しい運搬方法の教育
4 個人用保護具の使用 ⇒ ヘルメット、プロテクター装着
まずは1から検討し、難しければ2以降を検討するようにして下さい。
〇「転倒」要因
以下の通り、転倒には3つ要因があります。
以下、対策例を紹介しますが、どの要因に有効であるのか、注目して頂ければと思います。
〇対策例 マーカーの設置
上記3つの要因において、注意すべき点をマーカーに示すことでどの要因にも対応できます。更には、以下のようにマップを作成し、設置したマーカーを表記することで、見える化できて情報共有が可能となります。
職場のあんぜんサイト:STOP!転倒災害プロジェクト:危険箇所の表示等の危険の「見える化」 (mhlw.go.jp)
下記、マーカーサンプルを展開します。自身の職場でも有効活用下さい。
〇対策例 滑り易さマップ
応用例として、滑りに特化した対策例も紹介します。マップ作成は上記と同様ですが、各箇所の滑り易さを測定して数値で表示することで、より危険性が伝わり易くなっています。
〇対策例 安全通路の整備
〇私の失敗談
ここからは私の経験談を記載します。
以前、職場建屋入口にある約10cm程度の段差における転倒対策時の話です。
当初、以下の段差スローププレートを設置しようと考えました。
理由は、・軽い ・安い ・見栄えも良い ・耐久性も高い
と1500円程度にも関わらず相当高い性能から下記を即決しました。
アイリスオーヤマ製: 段差スローププレート
ただ、結論から述べると断念しました。以下が理由です。
・既製品は高さが一律10cmだが、実際の段差は10cm前後で均一の高さでなく、不適合部分が逆に細かい段差を発生させ、転倒を誘発するため。
・泥等付着防止用の表面加工が滑り易く、水が付着するとさらに滑り易くなるため。
・軽いため風でズレ易いため。コンクリートとビス固定可能だが器具が無かった。
正直、車庫前等、車通行が想定される場所であれば十分な性能と思います。ただし、今回のように、人の通行には不向きでした。
*性能自体は非常に高いので、ご興味あれば下記からどうぞ。
結果的に、固まる前のアスファルトを自身で塗り固めてスロープを作成しました。使用した製品を以下に示します。
前田道路株式会社製:全天候型高耐久型常温アスファルト合材 マイルドパッチ 20kg
使用方法の動画も見つけましたので、展開します。
参考:Tas Tech Co., Ltd.様 マイルドパッチで段差を補修してみました - YouTube
上記、使用した感想として、
・取り扱いが非常に簡単。開けて、撒いて、スコップで形を整えて、水を撒いて作業終了。
・見た目も良く、予想以上に頑丈。
・硬化中の成形も容易で加工が簡単。スロープも難なく作成できた。
*なお、注意点も記載します。
・早く固まるが、完全硬化には2~3日見た方が無難。
・押し固めるため体積が予想以上に減り、想定必要量の2~3倍は購入した方が良い。
・土等、柔らかい素材の上に施工する場合、レンガや石を敷いた後に施工すると良い。
*本件、非常におすすめです。購入は下記からどうぞ。
★管理人からのコメント
今回は自身の失敗談も交えつつ、実際の対策例を紹介しました。読者の皆様も、良い対策例があれば是非教えて下さい。また、今回は転倒に焦点を当てましたが、今後は転倒以外も対策例を紹介したいと思います。
では、今日も一日、ご安全に。
記事10 あなたの業種の危ない作業は何?業種別・事故の型別 災害傾向の分析結果
安全衛生管理業務を担当の皆様、ご安全に。
さて、第10回目は「業種別・事故の型別 災害傾向について」についてです。
*「記事5 災害統計データから見た傾向」では労災死亡者・休業災害の経時推移を示しました。記事5もご覧下さい。
★本日の要点
- 「事故の型」とは「事故の種類」を指し、21種類の分類がある。
- 全業種平均での休業災害要因は1位「転倒」、2位「墜落・転落」、3位「動作の反動・無理な動作」 (記事5参照)
- 各業種別の休業災害要因1位は、ほぼ上記の1~3位いずれかに該当。該当例は以下の通り。
- 「墜落・転落」 ⇒ 高所作業が多い業種に該当(建設や運輸)
- 「動作の反動・無理な動作」 ⇒ 重量物の取り扱いが多い業種に該当(貨物)
- 「転倒」 ⇒ デスクワークや接客系が中心の業種に該当(商業や接客娯楽)
- その中で、製造業は1~3位に非該当の「はさまれ・巻き込まれ」が該当。
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〇「事故の型」について
あまり説明のない「事故の型」ですが、いわゆる、事故の種類と解釈頂ければと思います。21種類に分かれており、以下の通りです。
「墜落・転落」、「転倒」、「激突」、「飛来・落下」、「崩壊・倒壊」、「激突され」、「はさまれ・巻き込まれ」、「切れ・こすれ」、「踏み抜き」、「おぼれ」、「高温・低温物との接触」、「有害物等との接触」、「感電」、「爆発」、「破裂」、「火災」、「交通事故(道路)」、「交通事故(その他)」、「動作の反動・無理な動作」、「その他」、「分類不能」
語句説明は以下参照。
参考:職場のあんぜんサイト:事故の型[安全衛生キーワード] (mhlw.go.jp)
21種類の事故の型詳細説明は以下参照。
この事故の型ですが、記事5でも紹介した通り、休業災害要因は1位「転倒」、2位「墜落・転落」、3位「動作の反動・無理な動作」となります。
ただ、本順位は全業種平均であり、業種別に抽出したわけではなく、一概に1位~3位を対策すれば最も効率的に安全性を向上できる訳ではありません。
そこで、業種別情報も追加し、再調査しました。
〇業種別・事故の型別 災害傾向
死傷病報告の中で、各業種における事故の型1位を抽出しました。
「労働者死傷病報告」による死傷災害発生状況(令和3年確定値) 抜粋
ちなみに、13保健衛生業の事故の型2位は転倒です。
参考:職場のあんぜんサイト:労働災害統計 (令和2年) (mhlw.go.jp)
* 「労働者死傷病報告」による死傷災害発生状況(令和3年確定値)
殆どの業種で、休業災害要因1位~3位と同じ項目が該当しました。該当例を以下に示します。
「墜落・転落」 ⇒ 高所作業が多い業種:建設や運輸
「動作の反動・無理な動作」 ⇒ 重量物の取り扱いが多い業種:貨物
「転倒」 ⇒ デスクワークや接客系が中心の業種:商業や接客娯楽
*製造業は1~3位に非該当の「はさまれ・巻き込まれ」となりました。
尚、他内容については下記に分析データが掲載されています。興味があればご覧下さい。
中央労働災害防止協会:労働災害分析データ (jisha.or.jp)
★管理者からのコメント
業種によっては全業種の休業災害要因1~3位に該当しない項目も存在するので、自身の業種にマッチした事故の型を優先して対策頂ければと思います。
また、これらのリスクを低減することで、労災件数も減少できると考えますが、実際にどのように減らすのか?等の方法を次回はご紹介できるように調査したいと思います。
では、今日も一日、ご安全に。
記事9 もう見慣れた三角形?ハインリッヒの法則 誤解し易いポイントとは?
安全衛生管理業務を担当の皆様、ご安全に。
さて、第9回目は「ハインリッヒの法則」についてです。
★本日の要点
- ヒヤリハットとは、その名の通り、実際には災害に繋がらなかった、突発的な事象やミスに「ヒヤリ」としたり「ハッとしたりするもの」を指す。
- 「ハインリッヒの法則」は「1件の重大災害(死亡・重傷)が発生する背景には、29件の軽傷事故、さらに300件のヒヤリハットがある」ことを示す法則。
- しかし、裏付けデータが残っておらず、事故の種類によっても数値に偏りがあることから、あくまで傾向しか分からない。
- 更には、同一の人に類似した事故が330回起こった場合に適応可能な法則であり、330種類の事故を示す訳ではない。勘違いし易い要素を含む。
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〇「ヒヤリ・ハット」について
この単語、その名の通り、「突発的な事象やミスにヒヤリ」としたり、「ハッとしたりするもの」を指します。結果的にその災害は起こる直前で収まったが、重大な災害や事故も発生する可能性も十分あったものとなります。
以下に例を示します。ポイントは、実際には災害は起こらなかった、です。
*以下に事例集も展開します。
〇ハインリッヒの法則について
メーカー、医療現場等々、様々な業界で必ずと言って良いほど目にする以下の三角形、「ハインリッヒの法則」ですが、これは、「1件の重大災害(死亡・重傷)が発生する背景には、29件の軽傷事故、さらに300件のヒヤリハットがある」を指します。
傷害を伴った災害を調べると,傷害は伴わないが類似した災害が多数発見されることがよくある。潜在的有傷災害の頻度に関するデータから,同じ人間の起こした同じ種類の330件の災害のうち,300件は無傷で,29件は軽い傷害を伴い,1件は報告を要する重い傷害を伴っていることが判明した。このことは5000件以上について調べた研究により追認されている。
- 重い傷害とは保険業者や(米国の)州の補償委員に報告されたものをいい,
- 軽い傷害とは応急手当だけですむ擦り傷や打撲等をいう。
- 傷害を伴わない災害とは,人間や物資,光線などの移動(スリップ,転倒,飛来,吸入等)を伴う計画外の事象で,傷害や物の損害の可能性があるものをいう。
- 報告のある傷害(重い傷害)のうちの大多数は死亡事故や手足を切断したような大事故ではない。全部が休業を伴うものでもなく,補償金の支払いを必要とするものでもない。
- 傷害を伴うにせよ伴わないにせよ,すべての災害の下には,おそらく数千に達すると思われるだけの不安全行動と不安全状態が存在する。
--H. W. ハインリッヒ、D. ピーターセン、N. ルース(著)井上威恭(監修)、(財)総合安全工学研究所(訳) 『ハインリッヒ産業災害防止論 海文堂出版(株) 1987年(昭和62年)9月 2版 ISBN 430358052X p59-60』
非常に有名な法則ですが、クレーム処理にも応用されているようです。参考に掲載します。
〇ハインリッヒの法則 注意すべき点
さて、そんな有名な法則ですが、実はいくつか注意点があります。
*参考動画
*安全衛生アカデミー「再考! ハインリッヒの法則」
①裏付けデータが残っていない
ハインリッヒに代表する1:29:300はあくまで全種類の災害平均で、更にはデータが残っていないことから、あくまで傾向としての推測しかできません。よって、以下の通り、災害種類によっても発生する比率は変わります。
尚、データ裏付けが取れたものとして、「バードの法則」があります。こちらも参考に掲載しますが、以下の通り、重症災害/軽傷災害/物損災害/ヒヤリハット=1:10:30:600となります。
②同一の人に類似した事故が330回起こった場合に適応可能
勘違いし易い点ですが、330種類の事故ではありません。
例
仮にパラレルワールドが330個あり、同じ人が並行して存在したと仮定します。
類似した事故に1回づつその人が被災したとすると、以下の通りになります。
・300人はヒヤリハットを体験。
・29人は軽傷事故を体験。
・1人は重大災害(死亡・重傷)を体験。
★管理者からのコメント
有名なハインリッヒの法則ですが、意外にも裏付けデータが無かったり、間違い易いポイントもあり、取り扱いに注意して下さい。尚、今回の伝えたいことを以下、例で挙げます。
転倒ヒヤリハットを体験したため、段差への対策を実施すると、軽傷事故・重大災害を防止できる可能性が高まるも、電気事故等の種類が異なるものの対策にはならず、また、その比率は災害の種類によっても異なるため、均等に対策の効果が発揮されるとは限らない。
となります。こう聞くと、とりあえず自身が体験したヒヤリハットを抽出して対策するよりも、危険性の高い危険源を早く特定し、対策を進める方が安全性は高まるのかなと感じました。
では、今日も一日、ご安全に。