記事27 なぜ?を繰り返してみよう。酸欠事故から学ぶ「なぜなぜ分析」による事故原因の分析
職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット事例(有害物との接触) (mhlw.go.jp)
安全衛生管理業務を担当の皆様、ご安全に。
さて、第27回目は「酸欠事故、及び、なぜなぜ分析」に関してです。
今回は酸欠事故を題材として、その事故の原因分析手法について紹介します。製造業の方は酸欠がどの程度危険であるか、既にご存じかと思いますが、他業種から見ると想像し辛い事故であるのも事実です。今回は、先日起こった酸欠による死亡事故を重大災害と捉え、業種に関わらず二度と繰り返さないためにも、周知の意味を込めて記事にしました。併せて、事故の原因を調査・分析する手法として「なぜなぜ分析」も紹介します。こちらの分析手法はとても便利で、労災に関わらず広く使用できますので、参考にして頂けますと幸いです。
- 酸欠災害の恐ろしさは、気づいたときには既に手遅れで、助けを呼べないこと。
- 沢山の理由が推測される場合に有効なのが「なぜなぜ分析」。
*本記事をPowerPointにまとめました。自由に編集し、安全衛生委員会等でご活用下さい。
「こちらをクリック」
★目次
酸欠事故の概要
まずは、以下をご覧下さい。
21日午前11時45分ごろ、北海道室蘭市の日本製鉄北日本製鉄所で「構内のコークス炉で2人の意識がない。ガスの恐れがある」と工場関係者から119番通報があった。道警によると、作業員の鈴木健さん(53)=同市日の出町=と近嵐正美さん(61)=同市中島町=が救助され、病院で死亡が確認された。道警は2人が酸欠で亡くなった可能性もあるとみて状況を調べている。
コークス炉は石炭を蒸し焼きにする施設。道警によると、2人は施設内にある「混炭機」のメンテナンスをしていた。近嵐さんが混炭機内で意識を失って倒れているのを鈴木さんが見つけ、中に入ったとみられる。施設にいた別の作業員は「工具を落として拾いに行ったのではないか」と話しているという。
混炭機はタンク状で、中では有毒ガスは検知されなかったが、酸素濃度が低かったという。
要約すると、「タンク状の混炭機をメンテナンス中に意識を失い倒れた方を発見し、助けに入った方も死亡。酸素濃度は低く、酸欠と推測。」となります。2名の方が死亡した悲惨な事故です。被災されました2名におかれましてはご冥福をお祈り致します。
繰り返しますが、この事故を元に、しっかりと水平展開(類似作業に対して対策を行うこと)が行われていれば事故は再発しません。
*以下の記事も参考にどうぞ。
〇水平展開
〇安全パトロール
酸素が足りないとどうなる?
今回の事故、酸欠が死亡原因と推測されています。
ところで、素朴な疑問ですが、人間は、毎日どのくらい酸素を必要とするのでしょうか?
呼吸量を調べたところ、1日で14400L(約20kg)と出てきました。
体重50kgの人の場合の一日の呼吸量(こきゅうりょう)を計算すると
0.5リットル×28,800回=14,400リットル
約20kg。これは、ごはんにするとなんと約100杯分にもなるんだよ。
人間は1日にどれくらいの空気をすうの? | 空気の学校 | ダイキン工業株式会社
これだけ多くの呼吸を必要とする人間ですが、酸素濃度が低い場所に行くとどうなるのでしょうか?以下、目安を掲載します。
酸素濃度 | 症状等 |
---|---|
21% | 通常の空気の状態 |
18% | 安全限界だが連続喚起が必要 |
16% | 頭痛、吐き気 |
12% | 目まい、筋力低下 |
8% |
失神昏倒、7~8分以内に死亡 |
6% | 瞬時に昏倒、呼吸停止、死亡 |
尚、瞬時に影響の出る6%はさておき、おおよその状況において、以下の通り、いきなり倒れる訳ではありません。
運動で呼吸が苦しくなったり、標高の高いところで頭が痛くなったりと、私たちの身近でも酸素欠乏症を自覚することがあります。医学的には健常者に酸素欠乏による症状が現れるのは概ね酸素濃度16%以下と言われていますが、15%になったからといって、いきなり倒れるわけではありません。
【第2章】第1節 酸素欠乏症の病理と症状②|(一財)中小建設業特別教育協会 (tokubetu.or.jp)
本当の恐ろしさとは
直ちに失神する例は少ないですが、厄介なのは、自覚症状が少なく徐々に症状が進行する場合です。酸素濃度12%に注目して下さい。「目まい」に加えて「筋力低下」の記載があります。
いざ、タンク内作業を行い、違和感を感じるもののそのまま作業を行い、頭痛等が発症してまずいと感じるも時すでに遅し。体が動かず、そのまま失神。というのが最悪のパターンです。
酸欠の恐ろしさは、気づいたときには既に手遅れで、助けを呼べないことです。
酸欠事故の発生状況
酸欠事故は緩やかに減少傾向にありますが、被災者は存在し続け、死亡事故も今なお発生し続けています。
〇酸素欠乏症の労働災害発生状況の推移(1992年~2021年)
酸素欠乏症・硫化水素中毒による労働災害発生状況 (mhlw.go.jp)
そして、その多くは製造業で発生しています。
〇業種別発生状況(2002年~2021年)
酸素欠乏症・硫化水素中毒による労働災害発生状況 (mhlw.go.jp)
製造業でなぜ多い?
製造業系は下記のような、人が何人も入るくらい大きな釜があります。
職場のあんぜんサイト:労働災害事例 (mhlw.go.jp)
主な商売道具と言っても過言ではないこちらの釜ですが、加工業にとって酸化は製品劣化の象徴であり、これらの釜は密閉性がとにかく良好です。そして、皮肉なことに、その密閉性が通気性を悪化し、酸素濃度を低下する要因となっています。
酸欠の対策
この酸欠に関わる作業に関して、以下が主な対策となります。
・酸素欠乏危険場所の事前確認
・立入禁止の表示
・作業主任者の選任
・特別教育の実施
・測定の実施
・換気の実施
・保護具の使用
・二次災害の防止
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/040325-3a.pdf
つまり、以下のような酸素濃度計の導入、であったり、
酸素濃度計 JKO-25 Ver.3 – ガス検知器 株式会社イチネン製作所 (ichinen-mfg.co.jp)
下記のような表示が有効です。
保安機材|東洋安全防災株式会社(公式ホームページ)-福島県いわき市 (toyoanzen.co.jp)
もし、各工場内にて、同様の箇所があれば対策をお願いします。
*ただし、今回、皆様にお伝えしたいことは少し異なります。
根本の原因は?
さて、長くなりましたが本題です。
今回、酸欠事故が発生したと書きましたが、推測部分も多く、その根本原因は何でしょうか?今一度考えて直してみましょう。
今回の災害ですが、そもそも原因が不確かです。
あくまでも、酸欠ではないか、という推測の元で記事を書いております。更には、「工具を落として拾いに行ったのではないか」という内容も記載されていますが、まだそういう証言があっただけで、その真意は不明です。
そんな沢山の理由が推測される場合に有効なのが「なぜなぜ分析」です。以下の様に、起こってしまった労災を問題(事象)として、分析することが有効です。
間違えない「なぜなぜ分析」のやり方・使い方 | もちブログ (mochi-blog.com)
何度も繰り返しますが、混炭機に入った際、酸欠により労災が発生した、としましたが、本当にそうでしょうか?
メンテナンスのためになぜ入る必要があったのでしょうか?
工具を落としたとありますが、酸素欠乏状態にあると分かっていれば入らなかったはずが、なぜ入ったのでしょうか?
と、沢山の疑問「なぜ?」が生まれ、それを分類分けして真の理由を突き止めることこそ「なぜなぜ分析」の出番です。
参考例
図解「なぜなぜ分析」の8つのポイント|事例や例題つきで解説 - びずすきる (biz-skill.com)
尚、実際になぜなぜ分析をされた方は分かるかと思いますが、意外にも膨大な時間がかかります。そして、悲しいことに、挙げたものの多くは間違いで、本当の原因は10件中1件あるかないかくらいと、原因究明にたどり着くのが大変です。
ただし、逆に言えば、沢山挙げれば挙げる程、真実に近づき、本当に必要な要因が分かります。
また、最終的には以下の様に、
事故発生⇒現地調査⇒分析⇒対策実施⇒水平展開⇒対策確認(安全パトロール)
が王道です。
このサイトでは何度も繰り返しますが、労災は誰の得にもなりません。ただ、残念なことに労災は再発しており、労災そののもは減少傾向であるものの、以前として根絶には至っていません。これは、水平展開が徹底されていないためでもありますが、そもそも行うべき対策が間違っていることも一つの要因です。
今回の災害ですが、よくよく見るとまだ分かっていないことも多く、あくまでも酸欠が要因の一つであり、原因分析次第では異なる対策方針が立てられることも考えられます。事故要因分析は時間を必要としますが、一つの災害をよく観察し、作業者から意見抽出に努め、真の原因を特定頂き、正しい対策、並びに、水平展開を実施されることが労災撲滅に繋がります。地味な作業が多いとは思いますが、是非正しい対策を取って頂けますと幸いです。
では、今日も一日、ご安全に。