記事25 本当の恐ろしさとは? 労災の対応方法について
安全衛生管理業務を担当の皆様、ご安全に。
さて、第25回目は「労災の対応方法」について紹介します。
皆様がお勤めの会社で労災が発生したことはありますか?長期間にわたり無事故を継続されている企業もあれば、残念ながら労災が日常的・常態化されている企業もあるかと思います。「慣れる」という言い方が正しいのか不明ですが、こちらの対応、慣れない内はとても大変で、労基署や保険組合、または病院へ何度も電話することにになるかと思います。今日は、そんな時にも、落ち着いて対応できるよう、対応手順を紹介し、更には、暗黙のルールである、法律には無い、実はこんな落とし穴がある等も含め紹介できればと思います。参考にして頂けますと幸いです。
- 労災対応は大きく分けて3つ。(①病院への送迎、②労災保険の請求、③労基署への事故報告)
- 極力、労災担当者は指示のみを行い、書類作成やその提出はあえてしないこと。
- 労基署への書類提出は休業災害か否かで決まる。
*本記事をPowerPointにまとめました。自由に編集し、安全衛生委員会等でご活用下さい。
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★目次
労災とは?
当たり前のことで恐縮ですが、労災をご存じでしょうか?
労災=労働災害のことです。要は、仕事中に起こった事故のことを指します。
そもそも、労働災害とは何でしょうか?
労働安全衛生法では、労働災害を「労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいう。」と定めていますので、簡単に言うと、労働者が仕事に就いている時に事故にあって、ケガをしたり病気になったりまたは亡くなったりすることを言います。
労災が起こったらどうしたらいい?
労災が起こると工場内がザワツキます。そして、ありもしない噂が凄い速さで工場内を巡りますが、安全衛生管理担当の皆様、まずは落ち着いて下さい。
労災の対応ですが、大きく分けると3つの手続きが必要で、早急な対応よりも、確実な対応が求められます。
①病院への送迎、②労災保険の請求、③労基署への事故報告、になります。まずは深呼吸し、以下を一読下さい。
そして、意外ですが、その対応方法は、労基署へ如何に正確に対応するか、ではなく、社内的に如何に正しいルートで判断するか、が重要となります。
①病院への送迎
被災者を病院へと送迎します。ここだけの話、産業医がいる・いないは関係無く、工場内の医療関係者に相談に行くと、ほぼ間違い無く近場の労災指定病院への受診を推奨されます。
尚、上記でも伝えた通り、専門性が問われる部分は判断を委ね、工場内の医療関係者に相談して必ず意見や見解を貰って下さい。そして、担当者の職位にもよりますが、自分が思うことは伝えたとしても、判断は上司に委ねて下さい。何度も言いますが、職務放棄ではなく、職位によって判断できる内容が決まっているケースが殆どであり、社内規定に従いましょう。
この判断を仰ぎ、病院受診を行うことになった場合、以下が注意点となります。
・受診する病院は「労災指定病院」にしましょう。
⇒受診前に電話して確認して下さい。
・保険証を使わずに受診しましょう。
⇒後々返金される際、保険証を使うと手続きが非常に大変です。最悪、使っても返金できるようですが、煩雑さから現金払いを推奨します。
②労災保険の請求
労災保険とは、以下の通りとなります。
労災保険とは、労働災害を被った労働者またはその遺族に対して迅速かつ公正な保護をするための保険制度です。労働者災害補償保険法に基づく国の制度で、保険者は国、加入者は事業主、保険給付対象は労働者及び遺族です。国が事業主から保険料を徴収し、労働災害が発生したときに、被災労働者及び遺族に対して治療、休業補償等の保険給付が行われます。
要するに「病院代や休んだ期間分のお金を貰える」という保険制度です。
こちら、実はそんなに手間ではありません。というのも、以下に書式が準備されています。
また、記入例も以下にあります。
そして、分からなければ、以下、各県の労基署に電話して聞けば良いので、慎重に進めば間違いようがない、というのが所感です。
全国労働基準監督署の所在案内 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
だいたいの労基署は電話すると丁寧・親切に教えてくれます。私も電話して感じたことですが、正直、質問する分には、全て正直に話したところで、労基署から目を付けられる、ということも無いと感じます。というのも、同じような問い合わせが毎日きており、労基署の方々、疲弊しているのが声から分かるためです。
*労基署の皆様、大変お疲れ様です。
正直、労災保険関連は、作成して病院や薬局に出せば終わりです。急ぐ必要もないので、確実に提出して下さい。
③労基署への事故報告
事故の規模によっては、労基署への報告が必要です。
具体的には、事故によって休む必要が生じた場合になります。
*尚、最近はWEBサービスの充実から、下記の通り、自動的に帳票を作成することができるようになっています。参考に掲載します。
昨今、企業は労災隠しを恐れ、意図せずに労災隠しになることもとても嫌います。コンプライアンス案件は担当者も敏感になり、提出忘れがないように、書面作成後は速やかに提出しましょう。
尚、提出期限ですが、
・休業4日以上は「遅滞なく」報告
・休業4日未満は取りまとめて報告
となります。
この世界にいると目にする「遅滞なく」ですが、とても基準が曖昧です。労基署の方に聞こうが、社内の有力な方に聞こうが、皆見解が異なります。
私の所感ですが、ミスしない程度のスピードで仕事を進めて頂き、確実に出せる日に出せばそれで良いと思いますので、あまり深く考えないでください。
注意点
全てにおいての注意点ですが、提出書類は嫌というほど関係者から了承を貰いましょう。特に、本人には必ずOKを貰って下さい。上記でも述べた通り、本人の意思を反映されずに申請されたパターンは揉めるケースが多いです。
*本来、請求関連は本人が作成することを前提としますが、おおよその場合、その複雑性から会社の人事・労務担当、もしくは安全衛生管理部門が作成することとなります。
そして、厄介なのが、労災認定されるかされないか、とても微妙な案件である場合です。記事12「腰痛対策と実例紹介」でも記載の通り、認定要件が少し複雑で、申請内容によっては労災認定されない案件もあり、最悪ここが争点となります。
休むか休まないかの違いは大きい
ここまで読まれてある種の悪い考えを持たれた方、たぶん頭の回転が速いとても悪い方です(笑)
そう、休業災害を起こさなければ、基本的に労基署への届け出は不要なのです。このことは、この業界に入って初めて学ぶことですが、とても重要なことです。
というのも、労基署への報告は、予告なしの監査や、最悪休業に追い込まれたりと、本当に憂慮すべき事項になり得ます。それが回避できる方法こそ、休業災害を避けることなのです。
極端な例ですが、親指をピンで刺して血が出て、一応消毒で病院に行けば費用負担こそ会社となりますが、次の日に会社され出社すれば、いわゆる「赤チン災害」(不休災害)になり、労基署への報告は不要です。
尚、この事故は大事をとって(どう大事をとるのか、突っ込みは控えて下さい)休めば休業災害になります。そうなれば、労働基準監督署へ書面提出が必要となり、目を付けられるキッカケになりますし、予告なしの監査対象になりかねません。
また、おおよその工場が掲げている、災害が発生していない期間を記録付けた「安全〇〇日達成!」の記録が0日へ修正となり、とにかく心象の悪い結果となります。
今までの話ですが、逆説的に言うと、休業災害相当の事故でも、通常業務はできないにせよ現場には代替のデスクワークがあり、それを治るまでとりあえず出社して行うようにすれば休業ではなくなります。
*これはとてもブラックな一例ですが、これが現実なのかなと思います。
休業しない場合は、『労働者死傷病報告』の届出は不要です。
企業はとにかくコンプライアンス違反を恐れています。それは、印象の悪さがとにかく強く、ひと昔前に流行った「バイトテロ」を象徴するように、最悪の場合倒産にまで追いやられるリスクを秘めた、本当に「テロ」になり得るからです。パワハラやセクハラが最近減少傾向にあるのはこの理由ですが、「労災隠し」も同程度に恐れられる内容で、大変注意が必要です。
安全衛生管理担当の皆様、もしも労災に直面したら、まずは落ち着いて、被災された方の症状を見て下さい。そして、病院へ行く必要があるのか、専門の方の判断を仰ぎましょう。その後、書類業務に着手し、何度電話しても良いので、時間がかかってもミスの無いように確実に進めて下さい。
では、今日も一日、ご安全に。