記事18 事故はなぜ繰り返す? 再発防止と水平展開の関係性
安全衛生管理業務を担当の皆様、ご安全に。
さて、第18回目は「再発防止と水平展開」について紹介します。
- 多くの災害は、過去に起こった事故の再発。
- 再発防止は原因分析が有効で、4M分析が広く用いられる。
- 4Mは「人・機械・環境・管理」を指す。
- 再発を繰り返す理由は、膨大な量の「類似作業」であり、全てにまで再発防止策が施工されていない、いわゆる「水平展開」が不完全であるため。
- 水平展開をどこまで実施するのか、線引きが難しい。
- 自職場の高リスク作業をリスクマネジメントで把握し、水平展開された事故内容が自職場作業と関連性から考慮し、必要な部分を取捨選択して対策することが再発緩和策。
- 再発防止の根源は自分事化で、トップ自らがその姿勢を見せ、安全文化の醸成を推進することが重要。
*以下の教育資料ppを展開します。自由に編集下さい。
★目次
- 〇ゴーカート衝突事故
- 〇全ての事故は再発事故?
- 〇再発防止の方法は?
- 〇それでも再発するのはなぜ?
- 〇類似災害への対策方法
- 〇水平展開の難しさ
- 〇ではどうすれば良い?
- 〇実例から学ぶ水平展開
- 〇自分事化の大切さ
〇ゴーカート衝突事故
また悲しい事故が起こりました。詳細は以下となります。
被災者におかれましては、ご冥福をお祈りします。
要約すると、女児(11歳)の運転するゴーカートが、子ども達に突っ込み、男児3人が病院に搬送された事故です。
こちらの記事も参考にどうぞ。
繰り返しますが、労災は誰も得しません。
被災者は勿論、被災者家族の受ける悲しみ、企業の管理・監督者への罰則、企業自体のイメージ悪化による売上不振、更には近隣企業や住民、世間からの非難の声と、皆が不幸になる、これが労災です。
〇全ての事故は再発事故?
記事10「業種別・事故の型別 災害傾向について」にて紹介した事故の型ですが、以前説明した通り、21種類に分類分けされています。
言い換えると、21種類に分類できるくらい、類似災害が頻発していると言えます。
〇再発防止の方法は?
再発防止で最も有効な方法は原因分析です。4M分析という、4つの「M」から事故原因を分析する手法があります。
【第1章】5 労働災害の原因の調査と再発防止対策①|(一社) 安全衛生マネジメント協会
4つの「M」について、下記、詳細を記載します。
・Man(人的要因)
①心理的要因 ⇒ド忘れ、ヒューマンエラー等
②生理的要因 ⇒疲労、睡眠不足、アルコール摂取等
③職場的要因 ⇒人間関係悪化、コミュニケーション不足等
・Machine(機械要因)
⇒設備欠陥、標準化不足、点検整備不良等
・Media(環境要因、ManとMachineをつなぐ媒体)
⇒作業方法不適切、作業空間不良、作業環境不良等
・Management(管理要因)
⇒管理組織の欠陥、規程・マニュアル不備、教育訓練不足等
〇それでも再発するのはなぜ?
この4M分析ですが、非常に有効な再発防止策です。また、人間は一度痛い目を見ると、その事故自体の再発を高確率で防止できます。
では、なぜ繰り返すのでしょうか?
今回のゴーカート事故もそうですが、果たしてその企業が所有している他のゴーカートに対策がされているのか?
全てのカーブに衝突防止策をしたか?
更に、同種の娯楽系企業はゴーカート、またはそれに類似する車に対策を行ったか?
等々、そもそも類似作業が多く存在し、更に発災企業以外の企業にも類似作業が存在します。
よって、同様に対策されない限り、同種の災害が発生することは容易に想像できます。
〇類似災害への対策方法
この類似作業に対して対策を行うことを「水平展開」または「横展開」と言います。
*本来の意味は下記のようです。参考に展開します。
水平展開とは、ある分野や場所、組織などで得た知見や能力、技術、ノウハウ、設備などを、同種の他の対象にも適用すること。
事故が起こると、4M分析等によって原因分析され、ある程度対策が取られます。よって、瞬間的には防止されるのですが、最終的な意味で防止はできていません。
それは、類似事故に関しての対策=水平展開が行われていない、または不十分であるためです。
【第1章】5 労働災害の原因の調査と再発防止対策②|(一社) 安全衛生マネジメント協会 (aemk.or.jp)
〇水平展開の難しさ
正直、水平展開は以下の理由から大変嫌われます。
①類似作業の線引きが難しく、線引き次第で労力が膨大となる。
②被災職場以外は発災と関係が無く、部門間で温度差がある。
③事故報告数自体が膨大で、そもそも水平展開の依頼件数自体が非常に多い。
〇ではどうすれば良い?
正直、すぐ解決できる手法はありません。
よって、自職場のリスクが高い操作をリスクマネジメントで把握し、水平展開された事故内容が自職場の操作とどれだけ関係性が高いのか考え、必要な部分のみを取捨選択して対策することが再発緩和策です。
*リスクマネジメントの考え方は「記事2 リスク」についてを参照下さい。
どこまで実施するのか困難な水平展開ですが、自職場において事故の可能性が高い操作が把握できていれば、自ずと何を水平展開するのかを選定できるようになります。
〇実例から学ぶ水平展開
今回のゴーカートの事故、調査しましたが、過去に類似災害がありましたので、展開します。
急死
1961年(昭和36年)2月14日12時20分頃、石原裕次郎のケガにより代役となって撮影に臨んだ映画『激流に生きる男』[注釈 2]のセット撮影中の昼休憩時に、セールスマンが持ってきたゴーカートを日活撮影所内で運転中、咄嗟にブレーキとアクセルを踏み違え、60 km/h以上のスピードで大道具倉庫の鉄扉に激突し、東京都北多摩郡狛江町(現:狛江市)にある慈恵医大病院に緊急搬送された。一時は意識が戻ったものの、2月20日になって再び昏睡状態に陥り、2月21日午前7時50分、前頭骨亀裂骨折に伴う硬膜下出血のため、21歳の若さで死去した。
事故
1961年1月、『激流に生きる男』で主演を演じるはずだった石原裕次郎が、スキーで転倒して骨折したことで赤木にその代役が回ってくる。ただでさえ多忙だった赤木は、この映画への参加により超人的なスケジュールを送ることとなった。2月14日午前中に赤木が栄養剤を2本も飲んで撮影を行った後、昼休みの日活撮影所の中庭では俳優や歌手たちの行列ができていた。そこでは輸入代理店のセールスマンが持ってきた、当時アメリカで流行していたゴーカートを試乗させていた。赤木は疲労困憊だったが運転が好きだったことから、「すぐに撮影始まるから先に乗せてよ」と言ってヘルメットを被ってゴーカートに乗り込んだが、撮影所内を走り出した直後に運転を誤り事故が起きた
以上が類似事故です。
本件、睡眠不足だった、というのも一つの要因ですが、ブレーキとアクセルの踏み間違えとの記載もあり、深堀すればするほど、今回の事故と関連する部分は多いのではないかと予測します。
〇自分事化の大切さ
記事8「相互啓発型の安全文化」の通り、自身だけではなくお互いにとって安全な環境の形成=自分事化が、労災を防止する効率的な方法、と書きました。
勿論、自分事化は大変難しいです。
自分のことで精一杯なのに、他人のことまで思いやりを持って対応するだなんて不可能だと感じる方、多いのではないでしょうか?
今一度考えてみて下さい。
本日の内容は、残念ながら、地道に努力を重ねるしかないという内容でした。
再発防止の根本は水平展開にあると言える程、重要なポイントです。どこまでを対象とするのか、線引きが難しい水平展開ですが、是非、皆様にも実施頂き、同様の災害を防止しましょう。
また、水平展開の選定において、事故リスク算出の手助けとなるのはやはりKYTかと思います。記事15「KYT(危険予知訓練)の正しいやり方」でも紹介しましたが、とにかく繰り返すしかありません。日々、鍛錬頂ければ幸いです。
では、今日も一日、ご安全に。
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