記事23 介護業界の安全管理 データから見た実情の考察と今後について
安全衛生管理業務を担当の皆様、ご安全に。
さて、第23回目は「介護業界の安全管理」について紹介します。
先日、Twitterを眺めた際、介護現場の労働に関する悲痛な呟きを見ました。内容は、長時間労働の実情、人間関係の悩み、人員不足による業務の皺寄せ等、いづれも根深く解決が困難と感じました。私は介護とは異なる業種ですが、この業界が大変という噂しか聞いたことがありません。そこで、今回はデータから実情を炙り出し、現状と今後の動向・対策について調査しましたのでお話します。
*本記事をPowerPointにまとめました。自由に編集し、安全衛生委員会等でご活用下さい。
*下記の通り、資料をダウンロードしてご使用下さい。
★目次
- 介護業界を観察して
- 介護業界で事件が頻発する理由は?
- 再発は防止できないのか?
- データから見た介護業界 結果
- 人員不足についての考察 従業員の不足
- 人員不足についての考察 熟練者の不足
- 人員不足についての考察 管理者の不足
- 考察まとめ、及び、今度の方針
- 皆様へのお願い事項
介護業界を観察して
個人的なイメージで恐縮ですが、介護業界は3K(きつい・危険・汚い)や新3K(帰れない・厳しい・給与が安い)と非常に悪いイメージがあります。
更には、事件にまで発展した悲しいニュースも多く、更にイメージが悪くなっています。
介護業界で事件が頻発する理由は?
調査した結果、以下の理由発見しました。
*記事抜粋
・訪問介護は特殊な職場環境⇒他の人の目につかない環境で仕事を行う
この推測が真実であるとすれば、事故の頻発は職場環境の劣悪さであると考えます。
よって、介護現場が心理的安全性の欠如した環境のために事件が頻発したと推測されます。
エドモンドソン教授によると心理的安全性とは「支援を求めたりミスを認めたりして対人関係のリスクをとっても、公式、非公式を問わず制裁を受けるような結果にならないと信じられること」であると定義しています。そして、「個の職場では、率直に意見を言ったりアイデアを提供したり質問したりしても、懲らしめを受けるんじゃないか、ばつの悪い思いをするんじゃないかと不安になったりしない」と感じるときに存在するものだとしています。
再発は防止できないのか?
事故が再発を繰り返す理由は以下記事より、水平展開が不完全なためです。
*水平展開=過去に発生した類似災害に対して対策を行うこと。
よって、今回の場合でいうと、心理的安全性が確保されておらずに発生した事故について、水平展開が不十分、または、未実施で再発したと考えらえます。
データから見た介護業界 結果
考察材料として以下データを抜粋して展開します。
抜粋元:公益財団法人介護労働安定センター 図表解説 介護労働の現状について
●所定内賃金、賞与の経年比較<無期雇用職員※、月給の者>
●事業を運営する上での問題点(複数回答)
●介護人材の不足感と不足理由
*不足感・・・介護サービス従事者が「大いに不足」「不足」「やや不足」と回答した割合の合計値
従業員の不足感低下傾向。ただし、訪問介護員は高止まり。
不足理由は採用が困難である。
●採用率と離職率の経年比較(訪問介護員、介護職員の2職種計)
●離職者の勤続年数の内訳
●雇用管理責任者の選任状況
以上、まとめますと
良い点
★賃金・賞与は増加傾向。
★従業員の不足感低下傾向。
★採用率・離職率共に低下。
課題
▲問題点は良質な人材確保。
▲訪問介護員の不足感は高止まり。
▲不足理由は採用が困難なため。
▲勤続3年未満の離職者が全体の約6割。
▲約6割が雇用管理責任者を未選任。
では、上記結果から考察を行います。
人員不足についての考察 従業員の不足
予想外でしたが、最初に述べた通り、ブラックなイメージの強い介護業界ですが、ここ数年の努力が実を結び、賃金の増加・従業員不足感の低下・離職率の低下と、従業員不足に改善傾向が見られます。
仮に、人員不足が事件頻発の理由であるならば、この調子でより良くなると仮定すれば事故再発は防止できる方向に進むと予想されます。
尚、記事19「外国人労働者への安全衛生教育」で述べた通り、今後外国人労働者も増加傾向にもあるので、人員不足問題はさらに解決の方向へ進むと予想されます。
人員不足についての考察 熟練者の不足
人員不足が解消に向かう一方、採用が困難であったり、勤続3年未満の離職者が全体の約6割を占めるなど、人員自体は増加するも、熟練者数には難がある状況かと思います。
更に、約6割が雇用管理責任者を未選任ということからも、業務を兼任している部分が多く、まだまだプロを育てるという認識が薄いと予想されます。
人員不足についての考察 管理者の不足
約6割が雇用管理責任者を未選任であり、管理職比率が少ないために管理不足が懸念されます。
以下サイトより、「適切な組織の管理者は10%で足りる」との記載があるも、医療・福祉における管理者数は、部長・課長合計で6%以下であり、他産業から見ても相当少ないことから、より管理不足が懸念されます。
●産業別部長比率および課長比率(平成30年)
企業規模別・業種別の管理職比率 ~組織の管理者は10%で足りる~ – 組織・人事コンサルティングの株式会社トランストラクチャ (transtructure.com)
考察まとめ、及び、今度の方針
以上より、各種データから推測するに、熟練者・管理者不足が深刻しており、心理的安全性が担保されない職場が存在し、事件が頻発すると考えます。
本結果より、対処は非常に根深く、一長一短での解決は難しいものですが、私からの提案は、皆さん一人一人が日々レベルアップを図る意識改革こそ管理者不足をカバーし、且つ、熟練者不足を補う一番の方法かと思います。
まずは、是非とも自組織への情報展開をお願いしたいと考えます。
特に、記事4「安全衛生委員会」にも記載の通り、各施設毎に実施の安全衛生委員会等で情報発信を行うことで状況は快方に進むと考えます。
尚、本委員会は「労働者の危険・健康障害防止のための対策に関して論議する場」です。現状の課題を共有頂けますと幸いです。
皆様へのお願い事項
昨今、暗いニュースも続きますが、少しづつですが介護業界は良い方向に進みつつあります。今後、更に良くするには、国の政策や管理者の増強・増加も重要ですが、一人一人の意識改革も非常に重要です。
介護業界はとにかく「転倒」と「腰痛」です。以下に対策方法に関する記事を掲載しましたので、参考にどうぞ。
記事11「転倒災害の具体的な対策例とその手順」
第12回目は「腰痛対策と実例紹介」
更には、高齢者用の記事として、記事17「高齢者の労災と対策方法」も展開します。是非とも施設内での展開をお願いします。
今回、別業種に関して調査しましたが、意外な一面を見ることができました。ただ、私はデータでしか見ておらず、結果に違和感を感じる現場職員も多いと感じます。どうすれば介護業界の皆様が安全に業務を遂行できるのか、これは永遠の課題であり、安全衛生の「タネ」として対策を考え続けますので、ご意見ございましたらお気軽にご連絡下さい。
では、今日も一日、ご安全に。